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いよいよ大学生活がはじまった。
授業もまだお試し期間で、どんなのがあるのかよくわからにけれど、愉しそうな感じ。
同級生のこともまだよく知らないけれど、面白そうな感じ。
そんなことを胸に想いウキウキしながら通学しようとアパートの駐輪場へと向かうと、その前に広がる駐車場に1人の女性がいた。
今まさに、車に乗って出かけようとしている。
私が「こんにちわ」と挨拶をしてみると、いつもどおり無表情の会釈が返ってきた。
一階の奥に住むおじさんによれば、彼女は看護婦をしていて、同じく一階に住んでいるとのことだ。
夜勤で疲れているのだろうか?

とそのタイミングで、一階の奥からスタンスタンと足音をたてながら、そのおじさんがひょっこり現れた。
偶然にも私を含む住人に出会えたのが嬉しいのか、沈んだ顔が急に穏やかになったのが一目でわかった。
おじさんはまず、私の方を向いて「悦ひろくん、こんにちは」と挨拶すると首を回転させて、次にその一階の看護婦のお姉さんにも「いやー、こんにちは。いつもお勤めご苦労様です。毎日毎日、大変ですなー!」と話かけた。

私は「こんにちわ」とだけ言って
たが、お姉さんは挨拶は返さずに無愛想にもこう言った。

「なんのことですか?」

沈黙が走ったあと、一気に不穏な空気がこの駐車場を包見込んだ。
おじさんの表情も固くなったが、すぐに笑顔をつくって口を開いた。
「いやいや、日々の夜勤ご苦労様ってことですよ」
それを聞くとお姉さんはさらに怪訝な表情を浮かべた。
私には明らかに嫌がっているのがわかった。
さっきまで静かだったお姉さんの声が大きくなる。